「今日の日直はー。おう、じゃあ川田とにしようかな。頼んだぞー」
ととんぼ先生が朗らかに、すがすがしく言うもんだから、その言葉の内容がどれほど重大なことか、一瞬理解できなかった。先生はわたしの机の上に、ぽんと学級日誌を置いて、「じゃ、授業始めるー内海号令してくれ」と言う。幸枝が起立ー礼!と言って、みんなが机やいすをがたがた揺らして立ち上がったとき、ようやくわたしも我に返ることができた。すこし離れた席で、有香と千里が、びっくりした顔でわたしを見ていた。彼女たちはわたしを哀れんでくれているのだ。



ー。元気だしなよ。いくらあの転入生がやくざ一家の跡取りで、前の学校で教師を半殺しにして、女生徒を妊娠させたからってさあ。しかもやくざの親にさえ見捨てられて一人暮らしを余儀なくされるほどの荒くれ者だってさあ。」
「有香ったら。大丈夫よ、だって日直なんて黒板消しとプリント配りと日誌を書くだけだもん。なにひとつ関わらなくても済ませられるわよ」
「そうそう。しゃべるとしても一言二言で終わるでしょうよ。でもああいういかつい強面の男って、おとなしそうな女が好きよね、意外と。気に入られちゃったらどうする!?なんて黙ってりゃ清純派だもんね〜アハハ、黙ってれば。」
「有香ったら、もう!がおびえてるじゃない可哀相に。」
「それに川田くんって留年してるんだよね。なんでも少年院で番はってる男と死闘を決したらしいわよ。仁義なき戦いね…男と男の肉弾戦よ。それで互角ながらも川田くんが最後まで立っていられたそうよ!」
「有香あんたそれどこからの情報よ……。しかもなに熱くなってんのよ。、ついてないわね。きのう散々川田くんの噂話をしてたばっかりなのに。だけどまあ、ふたりきりにならなければ大丈夫よ」


「そ………そうだよね…………」


わたしは力なく肯くことしかできなかった。


教室の窓際、一番うしろの席の彼。わたしはトイレで散々有香と知里におちょくられたり励まされたりして、よろよろしながら教室に戻った。教室に入ったとたん、一番に彼が目に入った──。やっぱり川田くんは異質だ。
ほかの生徒にはない、なにか近寄りがたい、成熟した雰囲気を漂わせている。
そしてそれを、まるでごく自然のことのように感じさせるような、飄々とした一面を覗かせていた。彼は自分の思い通りに物事を動かせることができるのだ、とわたしは思った。どこをどうすれば好きなように世界を変えられるか、彼は知っているのだ。それは武力の類じゃなくて、なにか生まれつき、彼に備わっている機敏さ、敏捷さがそうさせているのだ。
なぜなら、周りの生徒は彼の外見やうわさに怯えて、最初から友だちになろうと言う気を見せる人もいないし──そして川田くんも、周りから距離を置かれることを自ら望んでいるようだから。そのいかめしい外見だけがそうさせているのではないと思う。なにかもっと、近寄らせないようにさせる秘訣があるんだと思う。よくわからないけれど。


わたしがそんなことをぼんやりと考えていると、川田くんは読んでいた小さな文庫本を大きな手の中で広げたまま、ふと、窓の外に目をやった。その動作がなんとなくきれいで、わたしは、もしかしたら彼はそんなに悪い人じゃない、怖い人じゃないのかもしれないと感じた。そのひらめきは、さっき頭の中で展開していた彼の人柄への考察と同様、“なんとなく”の仕業だった。
なんとなく、彼はいい人なのかもしれない………──きっとそうだ。かといって、関わろうという気はてんで起きないけれど。よーくみたら渋くてかっこいいし、でもやっぱり近付きたくはないけれど。


こういう直感は、なぜかよく当たるのだから………。








「かっ、か、かわだくん………!!にに、に日誌書いてほしいんだけど………」
だめ!やっぱめちゃくちゃ怖い。あんな直感は、まるで当てにならない。
間近で見た川田くんは「暴力大好きです」と主張しているように傷だらけだった。わたしは自分の足が緊張でこわばっているのをどうしようもできなかった。なんて野生的な、真っ黒い瞳だろう。どうやったらそんなところに傷がつくのかしら?くちびるは閉ざされて、一度だって開いているのを見たことがない。シャツの上からでもわかる、なんて筋肉すぐれた肉体だろう。これは教師を半殺しにしたとか、仁義なき戦いがどうとか、そういうレベルじゃない。ただ修羅場をくぐってきただけじゃないぞこの人。きっと女を殴ったりすることも妊娠させることも朝飯前だろう。わたし、なぜ彼に日誌なんて書いてと頼んでしまったの?わたしが男の筆跡を真似て代筆すればそれで済む話じゃない。


ということがものの数秒で頭に駆け巡った。川田くんは帰る身支度をさっさと済ませて、かばんを肩に引っ掛け、今にも教室を出て行くところ、と言う状態だ。教室にはこれから部活に行くのか、ジャージ姿の貴子と、あとアイドルのことをおしゃべりしている佳織と恵しか残っていない。みんな、号令とともにさっさと部活やら家やらに行ってしまった。わたしは、ぐずぐずしていないで、みんながもっと残っているときに言うべきだったと後悔した。


「日誌?」
まるで、あ?知るかボケ、殺されてえらしいな。ちょっとこっちこいや!!とか言い出しそうな無表情で川田くんはわたしを見下ろした。低い声。なんて背が大きくて、肩ががっしりしているんだろう。わたしなんかきゅっとひとひねりだろう。
「ああ、そうか……学級日誌か。俺、今日日直なんだな、たしか」
「そ、そうなんだけど……」
「学級日誌って、日直の俺とおねえちゃんで書きゃいいんだよな。そっちのぶんはもう書いたのか?」
「う、ううん」
お、おねえちゃんってわたしのことだよね??わたしは自分の体の皮膚が汗で湿っていることを感じながら、必死に首を振った。
「まだわたしは書いてないの……。ご、ごめんなさい気が利かなくて……」
「や、気が利く利かんの話じゃないと思うんだが…。書くから、ちょっと待ってくれ」
「あ、う、うん」
「それか、おねえちゃんが先に書いてもかまわんぞ。俺、別に帰るの急ぎじゃない」
わたしと川田くんの異様な組み合わせを、恵と佳織がちらと見た。なんだかどんどんいたたまれなくなってしまう。しかも貴子は貴子で、わたしと川田くんなんか一瞥もしないで、さっさと教室を出て部活に行ってしまった。


「え、いい、いい、うん。先書いちゃって、わたしも帰り急いでないし……」
「そうかい?じゃあ、とにかく、急いで書いてしまう」
「う、うん。お願いします」
「で……悪いんだが、その手に握ってるボールペン、ちょっと貸してくれ」
「あ、ど、ど、どうぞ」
おろおろして挙動不審なわたしの態度を、彼はとくに妙に思っていないようだ。きっとこんな扱いを受けるのは慣れっこなのだろう。川田くんはすぐ近くにあった教卓の上に日誌を置き、今日の日付のページを開いて名前を記入する。


角ばった、左右対称な筆跡だな、とわたしはおもった。ふつう、右上がりだったり、斜めだったりするものだけど。もしかしたら、几帳面なのかも。


「今日………」
川田くんは今日の時間割をざっと書きながらつぶやいた。それが3時限目を書いているときだったので、そのときの授業内容が思い出せないのかと思ったわたしが、「ああ、えっと今日の3限は数学の、」と言ったとき、彼はちょっと笑みのようなものを浮かべて首を振った。


「いや、今日って7月7日だな。七夕。」
「え………あ、そうだね?う、うん。幼稚園で七夕祭りしていたよ、お昼、窓から見えたんだけど」
「へえ。けっこう近いもんな」
「うん。……」


なるべく川田くんの顔を見ないように、彼の手の辺りを見詰めたりしたけど、どこをとっても怖い。この人。声も深くて低くて、こういうごつい人ってどこかしら可愛いところがあるもんなのに、それが見当たらない。川田くんはさくさく書き進めていったけれども、本日の感想と言う欄でちょっと手を休めた。


「感想か……特になしと書いちゃ、あの“とんぼ先生”のお咎めを喰らうと思うかい?」
「たしかに。変なところは抜けてるくせに、案外熱血だからね、とんぼせんせ。」
「それは言えてる」


川田くんは、前日の新井田くんと加代子の感想をちらと眺めて、またページを元に戻した。黒い瞳がときおり睫毛のしたに隠されながらまばたいている。わたしはすっかりぎくしゃくしてしまった体をほぐすためにも、何気なくを装って、辺りを見回すふりをして体をひねったりしてみた。そのあいだに川田くんはまたどんどん感想も書き終え、彼が「ほら」と言ったときには、日誌はわたしのほうを向いていた。


「あ、こことかこことかも書いてくれたの。ありがとう……」
「いや、どういたしまして」
「じゃあ、わたしは感想だけを書けばいいのね」
「おそらくは」


ボールペンを返してもらって、川田くんの視線を右手に感じながら、わたしは「今日は」とまで書いた。川田くんは自分の文を書き終えたら、さっさと帰るだろうと思っていたのに、まるでそんな気配を見せない。もしかして、わたしが書き終わるのを待っているのだろうか?……
ふつう、ほかの男子なら、「待っててくれてるんだな」と素直に悟るけれど、何せ相手は川田くんだ。いったい、どうしていつまでも突っ立っているのだろうと思ってしまった。


「今日は………蒸し暑かった、ね」
「そうだな。とても。てっきり、雨が降るかと思った」
「梅雨だもんねえ」
「それもあるし、なんとなく七夕は、毎年雨が降っていた印象があるんだ。まあ、今年は梅雨明けがずいぶん早いらしいが」
「そうなんだ?」


なんだか、意外だなあ。川田くんみたいな人が、七夕なんて女子供の行事の日の天候を、ぼんやりながらだろうけど覚えているなんて。わたしはそれを面白く感じ、家に帰ったらきっと「どうだった、だいじょうぶだった?!」と詮索の電話をよこすであろう有香には、黙っていようと思った。


「おねえちゃんの家はどこなんだ?」
「え、わたしんち?……公園のすぐ傍なんだけど、わかるかな」
「それって、あのカラフルな滑り台のあるとこかい?」
「そうそう。」
「へえ。俺、近所だ」
「あ、え!?そうなの!?」
「ああ。ときどき、あのへんでおねえちゃんを見かけたもんだから、近所の女の子なんだろうなとは思ったが。ほんとに近いんだな。俺、あの公園の裏のぼろいアパートに住み着いてる」
「うわあ、ほんとに近いね!あそこに住んでるんだあ。っていうかわたし、そんなに目撃されてたんだね。気付かなかった、全然。川田くん目立つのに」
「すごく俯いて歩いてるからじゃないか。なんか探し物でもしてるのか?」
「ううん、えっと……あの通りのアスファルトさ、よくキラキラした石が混じってるんだよね。それを見ながら歩いてるから…」


我ながらばかばかしいんだけど……と付け足して、居心地の悪さを感じながら白状したわたしに、彼は「へえ」とごく普通に聞いているだけだ。なんだか、また驚いた。絶対引かれるか馬鹿にされちゃうと思ったのに。


「………あ、あのアパートに住んでるってことはさ、川田くんほんとに一人暮らしなんだ」
慌てて話題をすりかえようと、思いついたことをぽんと口に出してしまったけれど、そのあとでわたしは顔から血の気が引いていった。やばい……これはタブーだったかも……。やくざの親に見捨てられたとか聞いたけど、真偽はともかく、並々ならぬ事情がないかぎり中学生が一人暮らしなんておかしい話だ。少なくとも、ずけずけと訊いてしまうことじゃない。


「ん?ああ。さすがにあの狭さじゃな、一人が限界だよ。」


おお……い……意外。怒らないんだ。普通に答えてくれるんだ。「うるせー関係ねえだろ」くらい言われても仕方ないと思ったのに…だけど案外、深刻な事情を抱えている人こそ、触らぬ神にたたりなし……な態度を取られるほうが嫌なのかもしれない。それを確かめる勇気はないけれど。もうこれ以上込み入った話はすまい、と自分に決心していると、川田くんは続けて言った。


「狭いところは嫌いでないもんで、苦に思ったことはないしな。さすがに女の子を連れ込めるようなもんじゃないが、まあ、幸か不幸か、今のところ差し支えない」
「え、そ、そうなんだ………ふうん」
「あのへんはスーパーやコンビニも近いし、住めば都ってなもんだ」
「スーパーとか行くの!?いがーい!」
「行くよ」


川田くんは笑って眉を寄せる。スーパーのかごを下げて、牛乳とかねぎとかを手に取っている川田くんを想像すると、わたしもついつい笑ってしまった。なんだ、やっぱりあるじゃん!可愛いところ!“こういうごつい人ってどこかしら可愛いところがあるもんなのに、それが見当たらない。”なんて思ったけれども。


「じゃあ、料理とかするんだー。じゃあ掃除洗濯とかも?」
「人並みには。なんだよ、そんなに似合わないか、俺」
「似合わないよー、おもしろいよ。不摂生な生活してそうなのに」
「一人暮らしだと、自分でやらんとしょうがない。おねえちゃんこそ、家事手伝いしてるのか?」
「ん、ん〜〜〜………ちょっとだけなら。ちょっとだけ」
わたしが人差し指と親指で隙間を作って見せながら言うと、川田くんはくつくつ破顔する。その笑顔のおおらかさに、ちょっとだけどきっとした。普段怖い人の、優しい一面を知ると、ものすごくいい人に感じてしまうけれど……それと同じで、ギャップに動揺してしまう。


「川田くん、前はどこに住んでたの?」
「神戸」
「へえ、都会じゃん」
「ここよりはな。住んでたのは、薄汚ねえスラム街みたいなとこだったが」
「神戸………神戸牛………おいしい?あとプリンとかカツサンドとか有名だよね。おっきなアウトレットのお店があるんだよねえ」
「神戸牛はうまい。正月しか食ったことねえが。アウトレットは初耳だな……たぶんそれ神戸じゃなくて、兵庫のどっかだと思うぞ。女の子が好きそうなもんが多いのは事実だよ」
「あ、あと、夜景?夜景もすごいとこあったよね。」
「なんだ、興味あるのかい?」
「うん。あと神戸湾もあるよね。ここからも海近いし、潮の匂い懐かしいでしょう?」
「潮か」彼はちょっと目を伏せて、「そうだな」と肩をすくめた。それでわたしは、彼がもう神戸に関することを話したくないんだなと感じた。


「………。川田くんさ、こっち来てまだ3ヶ月だよね。もうすっかり慣れたの?」
「散歩がてら、そのへんをぶらぶらすることはあるんで、だいたいは。」
「え、けっこう複雑じゃない、この辺。知らない家が建ってることがよくあるし。わたしなんかいまだに迷うことあるよ〜」
「土地勘あるんだ。地理は得意なんだ。」
「へええ、男の子ってそうだよね」と言いながら、わたしは教卓に体重を預ける。川田くんはクリーンガムを取り出して、わたしにも勧めてくれた。
「じゃあもうお気に入りのうどん屋さんには出会った?」
「“とんぼ先生”にもしつこくいい店紹介するって言われたよ。まだうどんはあんまり食ってないんだ。」
「ふうん、そっか。とんぼ先生、おせっかいだからね。でもそこがいいんだけど。なにを書こうかな」
とボールペンを握りなおしたら、川田くんが片方の眉を持ち上げた。
「一応書く気はあったのか。ずっと手が止まってるから、もうほっぽりだして夜までいるのかと思ったよ」
「だって、書くこと思いつかないんだよね……」
「今日は何の変哲もない一日だったからな」
「………」


本当は、わたしにとっては何の変哲もないなんてことは、全然なかった。あんなに怯えて、怖がってた人が、実はいい人だとわかって、しかも普通にしゃべっちゃって、すごくうれしいです!と書きたかった。もちろん、怖い人には変わりないのだろうけど。でも、意外とすごく話しやすい人なんだ。わたしは明日から、彼におはようと言おう。あの公園の傍を通るときは、俯くまえに、川田くんの姿も見渡してみよう。


「………あ、そうだ。七夕だし、願いことでも書いておこうかなあ」
「とんぼ先生が叶えてくれるかもしれんからな」
「あはは、だったらいいな」





わたしは、たぶん自分が彼を好きになるような気がしている。そんな恋の香りが、やわらかく顔の前に広がっている。あのアスファルトに混じった、キラキラした砂粒を見詰めているみたいに、夢中になっているのだ。彼の可愛いところを、もっと知りたいと言う欲望もあるし。あんまり調子に乗って、ほんとに怖い目にあったらたまらないけど……。


「で、願い事、なににするんだ、サン」
「ん、なににしよう。……ってあれ、名前知ってたの?」
動揺して彼の顔を見上げると、川田くんは含み笑いのようなものを、くちびるの端に浮かべていた。


「記憶力もいいんだ。というのは冗談で、この日誌にサンがいま自分で書いてるじゃないか。」
「………。あ。ほんとだ、びっくりした!!」
「はは。だが、一度覚えたらもう忘れないぜ。忘れてほしいって言っても、だめだ」
「うそ、明日には忘れてそうだよ。あんた誰って言いそう」
「言うもんか。まあ、嘘かまことかは明日にならんとわからんが」
「んー、じゃあ、願い事決めた。”名前を忘れられないように”にしとこ」


実際にそう書き記すわたしの右手を見下ろして、川田くんは「とんぼ先生は何のことだと思うだろうな」と浅く笑う。
「にしても、ずいぶん謙虚な願いじゃないか。さっきカツサンドとかアウトレットとか言ってたのはいいのか?」
「いいのいいの。本当の願い事は、ちゃんともっと叶えてくれそうなところにするから」
「ふうん?」




( 川田くんのこと、もっとよく知りたいです。川田くんと、もっと仲良くなりたいです。 )




本当の願い事。たぶんこれは、直接川田くんにお願いしたほうが叶えてくれるだろう。
日誌や短冊にお願いしなくても、そのほうがよっぽど確実だ。








*
「…………えっっ!??誕生日、今日なの!!?」
「ああ。」
「うっそおおお!!適当に答えてるでしょー!」
サンが俺のプロフィール教えろって言うから、真実を答えたんだが。プレゼントはいらないぞ。」
「用意してないよ!!っていうかそうなんだー、うわー、びっくりした!!」
「なあ、このへんだろ?そのキラキラしたものが混じったアスファルトって。」
「あ、うん、ほら……ね?キラキラしているでしょ?天の川みたい!!」
「七夕に無理やりかけたな。だが、サン、俯いてないで今日はちょっと見上げてみろよ。本物があるぜ、空に」
「え………うわ……ほんとだ。きれー………よかった、晴れで。よかったよね。雨だと天の川、見れなかったんだもん」
「そうだな」
たばこを吸いながら夜空を見上げる川田くんを見ていると、自然とわたしは笑みを浮かべていた。川田くんもわたしの視線に気付いて、優しく微笑みかえしてくれる。きっといまなら、心から祝福できるはず。わたしは言わなくちゃ。確かな一言を、川田くんにどうしても伝えたい。
「川田くん、誕生日おめでとう。」
わたしの言葉に、川田くんは目を細めてうなずいた。
「ありがとう」





そんな彼の笑顔を見ていると、わたしの願いが叶えられた気がした。



誕生日おめでとう川田!